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夢大多亭
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2007年05月19日

ミンモアハウスディナー

 ミンモアハウスはB&Bでありながら、半径15Km内に町が無いので、夕食まで供出するオーベルジュ形式をとっている。午後8時少し前にウエィティングBarに入ると、ジャコビアン様式で設えられたインテリアの真ん中で、暖炉の炎がたおやかに揺れていた。赤いベルベットの影が、ここに集う人々のグラスや衣服の襞(ひだ)に、華やかに降りていく。
 わたしたちの気配を感じ取り、濃紺にピンストライプの三つ揃えのスーツを着込んだブリテンな紳士と、ロイヤルブルーのワンピースに身を包んだ婦人との御夫婦が、高尚な微笑で挨拶を求めてきた。わたしは、からだじゅうのエネルギーを瞳に集中し、顎を引き、口角をクイッと高めに持ち上げて、微笑をつくった。高尚な微笑なら『ローマの休日』で研究済みである。(けれど、眉も一緒にクイッと動かすと『風と共に去りぬ』のスカーレットになってしまうので、気をつけなければならない。と、森瑶子さんは言っていた)
 「あら、日本の方かしら?」との声に、奥のソファに視線を伸ばすと、わたしたちと同年代の日本人夫婦が立ち上がった。彼らはロンドン在住で、週末ごとにカントリーサイドに小旅行しているそうである。
 笑談をしながらアペリティフを楽しんでいると、ドアが開き、ベンジンを先頭に、シェフと、サーブの女の子が登場した。良さんは斜(はす)な角度をつけてベンジンを睨んだが、ベンジンはあくまでも涼しい顔ですましている。
 シェフは、リンの御主人で、若い時分にフランスで料理の修業をした経験があるという。ひととおり本日のディナーの説明を終えると、ぱんっ、と、ひとつ手を打って両腕を広げ、
「では今宵は、どうぞ僕の料理を心ゆくまで、堪能なさってください」と布告し、べンジンを従えて消えた。
 サーブの子が、料理を踏まえたうえでの飲みの物のオーダーを取る。ブロンドの髪をポニーテールに結って、ほっそりと背が高く、黒いセーターとパンツにベージュのエプロンをつけている姿は、なんとなくオードリーを彷彿とさせる。
 老夫婦はオーガニックの赤ワインをオーダーしたが、日本人夫婦は飲み物を取らなかった。
 さてわたしたちはまず、ワインセーラーがあるのかを尋ねてみた。
「ええ、あるわ」彼女の視線に力がこもる。
「一緒に来て。見てから決めるといいわ」(シュア、シュア。オフコース。である)
セラーの、独断と偏見に満ちたそのワインセレクトを眺めていると、御主人は間違いなくボルドー地方で修行を積んだに違いないという考察に辿り着く。なんたって左岸ばかりである。(ボルドー地方、ジロンド河の左岸には、グラン・ヴァンのシャトーが、キラ星の如く存在している)ヒューッと口笛を吹いて、スコットランドに着いてから、たくさん目にした羊にあやかって『ムートン』を開けてやろうかとも想ったけれど、マリアージュを考えて『ch. Brane Cantenzc 1998』にした。
「これにするわ。」わたしがワインを棚から引き抜くと、彼女は「Oh! グレートね」と、右手の親指を立てて賛成してくれた。

 夏の欧州は、緯度が高いほど白夜に近いわけで、各々が席に落ち着いたころに、やっと辺りが暮れはじめた。
 女の子は手際よくワインを抜栓し、うやうやしくグラスに注いだ。

*小麦胚芽のパン

*かぼちゃのポタージュスープ
かぼちゃの甘味、滋味深さを極限まで引き出すのに成功している。たっぷりの量であるにもかかわらず、決して重くなく匙がすすむ。これまで幾度となくかぼちゃのスープを食してきたけれど、ダントツである。ACマルゴーのやさしさと、ポタージュのリッチ感が相まって、スープでワインが飲めてしまう。

*鴨のソテー、ドゥミグラスソース、パッションフルーツとともに
鴨は1cmほどもの厚みでカットされていて、たっぷりのソースがかかっている、あくまでもジューシーで、そのエキスに喉が鳴り、肉片を呑み込んだ途端に、すぐに次の肉片に手が伸びてしまう。生のパッションフルーツをくずして、肉片に絡ませて食すと、その甘酸っぱさは、ワインが持つブルーベリーやフランボワーズのような甘い香りと果実味にぴったりで、通常では体験し難い、爽やかなマリアージュとなった。(ここまでで、見事にワイン1本を、するすると飲み終えた)  

*りんごのスフレ
なんてメニュウは、よっぽど自信がない限り出てこないものである。角が立つメレンゲそのままのふんわり感。きめ細やかな生地は、これ以上ないほどに空気を抱え込んでいる。そしてカルヴァドスの、鼻腔の奥をくすぐる酸味たっぷりの甘さ。熱さにやられながらも、口の中の皮がむけてがべろべろになっても、時間と競争するように食した。

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この記事へのコメント
二級格付けのカントナック村のワインでディナーですかー。ヽ(゜▽、゜)ノしかも、滋味豊かな素材に合わせると・・・羨ましい・・・私にはそんな財布の中身が無いです。(T_T) ここのシャトーって柔らかで滑らかで香り豊かで呑むベルベットみたいな奴で、鴨ですか・・・。(^o^;)
Posted by 赤枝騎士 at 2007年05月19日 11:19
赤枝騎士さま
はい(^^)/
イギリスの食事は、皆さん、美味しくないっておっしゃいますが、
実際に行ってみた感想では、驚くほど美味しい料理に遭遇しましたので、リサーチが大事なのだろうと想います。
スコットランドは特に、土地の滋味に溢れた食材はたっぷりありますしね。
ここの鴨料理は、わたしの人生の中で、一番美味しい鴨料理でしたよ。
(今現在でも。東京のトゥールダルジャンをも、超えてます!)
カントナックは、いいですよね~。
レストランでオンリストしてあったら、この想い出が脳裏をよぎって、
ついリピートしちゃいます。
Posted by at 2007年05月19日 14:12
>夢大多亭様
読んでいるだけでよだれが~~~
素敵な時間を過ごされたんですね
しかも、その様子がよく伝わってくる文章ですね(^^)
Posted by モルト大好き at 2007年05月19日 15:00
え〜、私はエゲレスに行った事はありませんので、偉そうな事を言って良いのかは不明ですが。f^_^; しかし、エゲレスを理解するには彼の国が複数の文化を持つ複数の国であるのを前提にする必要があるかと・・・日本でイギリス=イングランドなので確かに飯は怪しいと思います。何回か少し古い料理などのレシピをみましたが、特に野菜の扱いが酷い印象が。f^_^; 蕪ですら重曹を使って長時間煮込む位で、野菜は全て柔らか過ぎのグチャグチャ状態みたいでした。対して、周りのスコットランドやアイルランドなんかは素朴な田舎料理で以外と素材をいじくらないのが日本人に合うと思いますよ。しかし、ブラーヌカントナックをレストランでリピートなんて凄いですね〜。(^o^;)手持ちは94が一本有るだけ・・・呑んだ事有るのも94と66の2本しか無いで〜す。全て安く仕入れた奴(ノ_・。)
Posted by 赤枝騎士 at 2007年05月19日 22:49
モルト大好きさま
わたしの文章の先生から、「ウイスキーに関係ない余分な文章はそぎ落とすべきである。」という訓示を受けましたが、
余分な中にこそ、真実と臨場感があると想うんだけどな~(^^;
ということで、聞く耳もたず、何でもかんでも、載せちゃうことにします。(^^;

赤枝騎士さま
はい(^^)/
確かに。本で読むレシピはめちゃくちゃですよね。野菜は全壊されてますね~。
しかし、ま、伝統を重んじるエゲレスですが、新しい世代の料理人は、フランスあたりで修行を積んで、「繊細」な料理も作れるみたいですよ。(^^;
’94飲み頃でしょうね。(^^)
Posted by at 2007年05月20日 07:25
良い意味でイギリスらしい素朴さが残った洗練さに進化しつつあるみたいですね〜。イギリス全体の料理。大阪でもイギリス人職人さんのニューイングランド菓子の店が有ります。が、焼き菓子なんかフランスの洗練された素朴さとは、また、違った質実剛健と言うか野暮ったさがベースに残った感じが有って私は歴史を大事にしながらの姿勢も味も好きです。(^-^)/
Posted by 赤枝騎士 at 2007年05月20日 12:33
野暮ったさのなかに、粋がある感じですよね。
紅茶が飲みたくなってきました。(^^)
Posted by at 2007年05月26日 11:42